中華民国(台湾)の国交樹立国、南太平洋・ツバル政府は11月23日、環境をテーマとした作品を手がけている台湾のアーティスト、黄瑞芳(Vincent J.F. Huang)氏をツバルにおける「気候危機担当大使(Ambassador for Climate Emergency)」に任命した。政府が芸術家に気候変動対策への取組みに関する任務を任せるのは世界で初めてのこと。
英国議会は5月、気候変動への危機について、「気候非常事態(climate emergency)」宣言を採択した。これは、世界各国が気候変動を食い止める対策を早急に実施する重要性を強調するもの。続いて、フランス、カナダなど主要国及び都市でも、「気候非常事態」宣言が採択されている。「気候非常事態」という言葉は、英国の「オックスフォード英語辞典」を出版するオックスフォード大学出版局による2019年を象徴する言葉に選ばれるほど、使用頻度が高まっている。
黄瑞芳氏は2010年から、国連気候行動サミットやイタリアで二年に一度開催される世界最大規模の現代美術展、「ベネチア・ビエンナーレ」など国際的な場で、ツバルが地球温暖化によって水没の危機に直面している問題について、国際社会において重要視するよう芸術作品を発表することで呼びかけている。作品はさらに、これによって世界の生態系に大きな影響を与えることを示唆しており、ツバルの首相から高い評価を得た。
黄瑞芳氏に対する大使の任命書授与式はツバル首都、フナフティ島で行われた。授与式では、カウセア・ナタノ首相と黄瑞芳氏が、海に入り半身が海水につかるほどの場所で、常に波の衝撃にさらされている状態を見せた。これは、気候変動に対する危機感を持って、さらなる対策強化の呼びかけを意味している。
黄瑞芳氏は10日、台湾のメディア、中央社の電話取材に応じ、「ツバルの二酸化炭素排出量はとても少ない。にもかかわらず海面上昇による水没の危機に瀕している。ツバルが気候変動による困難に直面し、気候変動問題の最前線で危機を乗り越えようと努力している姿には、多くの人が心を動かされるものだ」と語った。
ツバルでは、人工島の造成を計画している。埋立地を作ることで、海面上昇による居住地の減少を防ぐとともに、ツバルがクライメイト・ポジティブの実現に向け、持続可能な開発・発展を目指したグリーン経済計画を打ち出す狙いがある。工業革命以降、化石エネルギーに高度に依存している世界各国のために、エコな循環型経済のモデルを提案し、世界各国の参考に供すると共に、人類と自然界の全ての物が平和共存する方法を新たに学習し、再考する。
カウセア・ナタノ首相と共に国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)が開催されているスペイン・マドリードを訪問している黄瑞芳氏は、アントニオ・グテレス(Antonio Guterres)事務総長ら当局役員と対面する予定だ。10日(台湾時間)から始まったCOP25の閣僚級会合ではまず、太平洋諸島の国々から優先的に発言の場が与えられており、ツバルは2番目となっている。
黄瑞芳氏によるとツバル政府は、気候変動の危機に大きな関心を寄せている英国のチャールズ皇太子ともコンタクトを取っているという。チャールズ皇太子は来年にもツバルを訪問する予定。黄瑞芳氏は、アントニオ・グテレス事務総長やチャールズ皇太子を始めとする国際的な影響力のある人々と力を合わせて、ツバルによる人工島の造成計画など気候変動対策を推進するのをサポートしていきたい考えだ。